ぼく「あいててて…ん、あれ?ここは…?」
ぼくは…誰だっけ?
気がつくと僕は浜辺に寝ていた。
どういう事なんだろ…?
頭がボーっとして少し痛む。
どうしてここにいるんだろう。
どうして寝ていたんだろう。
どうして名前を思い出せないんだろう。
ぼくは「うぅん、うぅん」と頭をひねる。
そしてひとつの結論にたどりついたんだ。
ブイ「そっか!これがかの有名なキオクソーシツってやつか!」
それを考えて余計むなしくなった。
ぼく「…はぁ…」
泣きそうだよ。
どうして一人ぼっちなのさ。
ぼくは記憶喪失だし、わかってるのは自分は人間ってことだけ。
とっても寂しい。それに精神的につらい。
とりあえず夢だと仮定してもう一回眠る?
それとも…このよくわからない世界を少し探検する?
せめて誰かいればなぁ…。
そう思っていた矢先。
「やぁ、こんにちは。」
話しかけてきたのは、ぼくとちょうど同じくらいの大きさのヒノアラシだった。
ぼく「え…ふぁ?」
「あれ、君泣いてるの?」
ぼくは唖然としてしまう。
なんで人間とおんなじサイズのヒノアラシが?
それになんで言葉がわかるの?
そう思ったが、それより先に反論する。
ぼく「泣いてなんかないよ!」
たぶん自分の心が不安定だったし涙目になってたからかな。
それにとりあえず当たれるものが欲しかったからかもしれない。
ヒノ「はじめまして、自分の種族はヒノアラシ!「ヒノ」って呼んでね!」
その次に発した言葉にぼくは固まった。
ヒノ「君の名前は?可愛い「イーブイ」君!」
ぼく「…イーブイ?…ぼくが…?」
ヒノ「その茶色いふわふわした体毛に柔らかそうな尻尾、つぶらな瞳、大きな耳。どう見てもイーブイでしょ?」
ぼく「えっ?えっ!えっ!?」
ぼくは慌てて海のほうへ…走ろうとした。
二本足で立ったらバランスをくずしてころんじゃった。
体はもふもふしていた。そして、立ち上がると尻尾が見えた。
ぼく「うそだ!ぼくは人間だ!」
叫ぶ。
ヒノアラシのヒノは、珍しいものでも見るようにこっちを見る。
走っていって海を見た。
海を見るとイーブイがこちらを見つめかえしていた。
ぼく「そんなっ…ぼくは人間で…」
ヒノ「えぇっと…自分にはよくわからないけど…こまってるんだよね?」
ぼく「困ってるよ!」
ヒノ「じゃ、じゃあさ…自分と一緒にギルドに行こうよ?」
ギルド?なにそれ?なんで一緒に…と言いたくなったけどそんな事を言ってるほど余裕はない。
とにかくぼくはついていく事にした。
ヒノ「それじゃあこっち!」
ルンルン♪と擬音がでそうな程ご機嫌なヒノ。
ぼくの気持ちは正反対。
イーブイになってしまったぼく。
知らないところにいるぼく。
ポケモンと話してるぼく。
記憶を失ったぼく。
よくわからない。
さまざまな思考が頭の中をめぐっては消えていく。
自問自答。答えは出ない。真相に迫っている気もしない。
ぼくは…何をしたの?
何があったの?
そんな堂々巡りをしているうちに、
ヒノ「ついたよ!えーと…」
ぼく「イーブイだからブイでいいよ」
ヒノ「そう?それじゃあ…ブイ!」
ぼくは顔いっぱいに愛想笑いを浮かべてうなずいた。
・
・
・
いろんなポケモンがいるなぁ…。
ぼやーっとしてる自分の頭の中は意外と冷静に状況を分析していた。
ヒノのギルドについての説明を自分なりに解釈する。
ここの街はとても広く、旅人やいろんな商売人が通り自然と発展した街。
だが大きな街なら大きな街だけに闇も裏も増える。
闇商売なんかをやっている奴もいれば、普通に木の実を売る奴もいる。
街の真ん中には大きなギルドがあり、行方不明者や取ってきて欲しい物。
そしてお尋ね者の逮捕などが主な依頼である。
救助隊や探検隊や、フラッと現れた旅人なんかが依頼を達成し、帰ってくる。
その一連の流れでギルドがある。存在する。という事らしい。
たまぁに、本当にたまぁに、依頼に行ったきり帰ってこない隊がいるそうな…。
それはどこかにとてもわるい悪魔がいて、いけにえを選ぶ…。
ぼく「…そんなのいるの?」
ヒノ「本当だよ!自分は嘘つかないし…実際帰って来ないのだって…わぷっ!」
ぼく「嘘くさ…うわっ!?」
「…ん?だぁれ、君」
大きなポケモンが目の前に立っていた。
オレンジに近い体色、キメの細かい硬そうなうろこ。
2m以上の大きな体に丈夫そうな二本の後ろ足。
穏やかそうな表情で額に一本の短い角と触覚のようなものが生えている。
太い尾などから察するに、おそらくドラゴンの…。
ぼく「カイリュー…だっけ?」
絵本で見たことがある。
溺れている人を助けたり、難破した船を陸まで運んだりする優しいポケモン…のはずだ。
カイ「そうだよ~。僕はカイリューのカイ。」
普通に言葉の区切りに「~」の入りそうな喋り方をするなぁ。
カイ「あ~!」
突然大声を上げたカイ…さん。
ヒノ「ひっ!自分はヒノ!こっちは友達のブイです!」
ビビりまくって聞かれてもいないことを答えるヒノ。情けないなぁ。
カイ「そうそう!ブイ君だったね!探してたよ~!」
ぼく「えっ…?探してた?どういうこと?」
カイ「やだなぁ、忘れちゃったの?」
ぼく「え、あの、どこかでお会いしましたか?」
彼はぼくを知っている?でもぼくは彼を知らない。
じゃあ彼はぼくのなんなんだろう?
カイ「えぇと…それじゃあ僕と一緒に行こうか!」
ぼく「なんで…ですか?」
カイ「まぁいいからいいから!」
強引に連れて行かれてしまった。
ヒノアラシは悲しそうだったが「よかったね」と微笑をうかべて去っていった。
暗い森。なんでここにきたんだろ?
カイ「ねぇ…?君さ…」
ぼく「ふぇ?」
カイ「本物は見たことないけど…たぶん…」
ぼく「?」
カイ「ニンゲンでしょ?」
ぼく「え、うん!そうだよ!!」
やった!もしかしたらこの人(?)なら元に戻れる手がかりを知ってるかも…!
カイ「じゃあさ、君はここの住人じゃないんでしょ?」
ぼく「え、あ、まぁ…」
なんでこんな事聞くんだろう?
カイ「ということは…君がいなくなっても誰も気にとめないよね?」
ぼく「そういうことになるかな…」
グキュルルルゥ~…。
いきなりぼくの目の前から間の抜けた音が鳴った。
ぼくの目の前ってことは正面だから…カイさん…?
ぼく「お腹減ってるんですか?」
カイ「うん。朝から食べてないからね~」
ぼく「そうなんですか…」
カイ「僕ね、生きたままの小さなポケモンを食べることが大好きなの」
…!?
一瞬ぼくの思考は停止した。
カイ「最近ちょうどいいのがいなくてね、なかなか食べられなかったんだ」
ぼく「え…え…?」
カイ「十数えてあげるから逃げな」
ぼく「え?」
言葉が出てこない。単語として確立された言葉が出てこない。
ぼくは酸素の足りない金魚のように口を数回パクパクする。
カイ「いーち…」
ぼく「う、うわああああっ!!」
一目散に逃げ出す。
なんでかわからないけど危ない。生物としての本能が危険を告げている。
ぼくは考える。
ぼくの姿はイーブイ。
イーブイはノーマルタイプのポケモンで、進化系の種類は他に類を見ない多さ。
進化すればもしかしたら対抗できるだろうか?
あっちはカイリュー。ドラゴン・飛行タイプで、知能は人間並みで超強い。
種族としては伝説並みにズバ抜けた凄いポケモン。
ぼく「どっかに進化の石かそれ以外にきっかけになる物が…」
それさえあれば強くなって攻撃してひるませる事くらいできるはずだ!
カイ「はーち…きゅーう…」
ぼく「なんかっ…!なんかっ…!!」
無我夢中で突っ走る。
ぼく「あっ!」
うつぶせにつまづいて転んだ。もう駄目だ。
ぼくは涙を流しながら、最後に抵抗をしてやろうと体を起こす。
ぼく「…これは…?」
つまづいた物を手に取る。
ほのかに暖かい、オレンジ色の石…。
ぼく「【ほのおのいし】…?これは…きっとぼくの力になってくれるはず…!」
ぼくはそれを額に押してた。
ピカッとまばゆい光がぼくをつつんだ。
光が収まる。
暑い。熱い。体が火照っている。
ぼくは…イーブイからブースターに進化したみたいだ。
カイ「みーつっけた♪」
どうしよう、負ける気がしない。
カイ「……あれぇ?君……進化したの?」
きょとんとするカイリュー。
ぼく(ブースター)「ぷくく……。この間抜け面!お前なんかひとひねりだ!」
あんなに怖かったカイリューがすっごくに弱そうに見える。
カイ「へぇ……?」
……やれる!今の僕ならこんな奴簡単に倒せる!!
ぼく「【かえんほうしゃ】!!」
カイ「あちっ!あちちっ!!」
ぼく「ふっふう!まいったか!」
まさか自分のクチから火が出るなんて……。
なんか少しだけ口がヒリヒリするけど慣れれば問題ないと思う。
ぼくはニヤニヤと笑う。余裕だ、こんな奴。
それから数分経って、最初に会ったときの立場とは逆転していた。
ぼくは【かえんほうしゃ】を連発しまくった。
おかげでカイリューの厚そうな鱗、体にはいくつもの火傷のあとがあり、うつぶせで倒れていた。
カイ「う、うーん……痛い……」
戦ってみたらこうも弱いとは。いや、ぼくが強すぎるのか。そう思うと笑いがこみあげてくる。
ぼく「ふふふ……ザマァミロ!」
近くに行って頭をグリグリ踏みつける。
ぼくは少し快感を覚えていた。
そのときだった。
“ガシィッ”
ぼく「え?」
もう体力は残ってないはずのカイリューの腕がぼくに伸びてきて、腕……今のぼくの前足に当たる部分を掴んだ。
カイ「……ク……ププ……」
かすかに笑う声。まさか……。
カイ「あはっ……あははっ……あーっはっはっは!!」
急に馬鹿笑いしだした。まさかじゃない。このカイリューは……。
カイ「ねぇ、君みたいに小さくて弱い、ドラゴンでも氷でもないよわっちいのが僕に勝てるとでも思ったの?」
ただやられたフリをしていただけだったんだ!
今まで聞いた事しかなかったような汚いののしり言葉がいくらでも震える口からながれでる。
ぼく「嘘だ……嘘だっ……!」
頭がクラクラする。なんで、どうして。おかしい。
カイ「ねぇ……ちょっと運動したらお腹すいたんだけど」
ぼく「ひ……やめ……!」
早く遠くに逃げないと……!
カイ「【ドラゴンダイブ】♪」
“ドスッ!!”
背中にとてつもない衝撃がはしった。
肺から空気がなくなったような、体がバラバラになったような。
ぼく「な……が……あぐ……」
光がチカチカする。
景色がぼやけて見える。
でももう何も見えない、何も。
ぼくの体が少し浮いたような感じがした。
カイ「そ…じゃ、いた……まぁ……す♪」
音もほとんどわからない。
何も見えないし何も聞こえない。
でも、ゆっくりと自分の体が持ち上がって、自分の体が深い闇に包まれていくのはわかる。
クチャァ…ニチャニチャ…。
でろりとした液体がぼくをつつんで、ゆっくりとゆっくりと奥のほうに押し込まれてる。
今までの短い人生がスライドショーのように見える。これが走馬灯なのかなぁ。
妙に落ち着いている自分を疑問に感じながら、温かい不思議な場所へと運ばれていった。
そこで、ぼくの意識は途切れた。
[6回]
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