森にて…。
「グルルルル…」
飢えていた。
彼は一週間近く何も食べていなかった。
口の端からよだれを垂らし、目は血走り、腹は大きな音を立てていた。
「ヴヴゥ…」
なんでもいい。なんでもいい。食べられるものならなんでもいい。
彼の目はそう訴えている。
グゥグゥと鳴る大きな腹を押さえていた。
最初に目に入ったのは、遊んでいるのだろうか、小さなコラッタとビッパだった。
すばやく駆け寄り、首を掴んだ。
「ぎゅっ!?」
「ぐえっ!!」
じいっとそれを見つめた後、ヒョイと口に放り込み飲み下した。
腹の中でもがき続ける二匹を無視し、次々と獲物を放り込んでいく。
皆が皆似たような悲鳴をあげながら、バンギラスの腹へ収まっていく。
獲物たちは最初は大暴れし、少しずつおとなしくなり、動かなくなっていった。
「げふぅっ…」
彼…バンギラスがゲップをする頃には、森は耳が痛くなるほど静まり返っていた。
なんの音も、なんの気配もしない。
「はぁ…」
罪の意識は特に無い。
腹が減ったから食った、という感じで。
――――――
何時間か過ぎた。
バンギラスは、昼寝をし、まったりとしていた。
「…?」
不意に、気配を感じた。
今までの獲物とは明らかに違う、明確な殺意を持った何かだ。
「…誰だ」
答えはない。
「…誰だといって…」
そこまで言ったとき、太い水の柱のような物が体に叩きつけられた。
バンギラスの巨体が軽々と吹っ飛び、樹木にぶつかって止まった。
効果は抜群だ。
「(思ってたより体力の消費が激しいな…」
冷静になり、先ほどの攻撃を考えると、今の水の柱はアクアテールだという結論に達した。
アクアテールというのは尻尾などに水をまとわせて、それを標的にぶつける技である。
あれだけふとければ、その尻尾の持ち主は恐ろしく強大である。
「チッ…なにもんだ…」
そうつぶやくと、今度は…
「!!」
ドドン!と音を立てて雷が落ちた。とっさに回避する。
その上には小さな雷雲。
「次はかみなり…」
一瞬、ボウッと音がしたかと思うと、いきなり目の前が燃え上がる。
否、自分の周りが炎上した。
「ぐああああっ!」
だいもんじだ。
正体のわからぬ相手にボコボコにされてしまった。
「…クソォッ…」
そこで気絶してしまった。
……………。
「…ねぇ」
不意に子供のような声がした。
「ねえったら」
しつこく呼びかける。
「おきてるよねぇ?」
ようやくそこで自分を呼びかけてるのに気付くバンギラス。
「…?」
カイリューがこちらを見ていた。
自分の体を確認すると、堅い鎧のような皮膚がところどころひび割れ、血が流れている。
「どういう…?」
「あ、君ね、僕に倒されたの」
「!?」
思わず飛び起きる。
そして体に激痛。
「お前がか!?」
大声で聞く。
「うん!…だって君、眠そうな顔してたしすっごい弱ってたし」
「そうか…?」
自分でも、かなり弱っている気がしていた。
「…ていうか、キミさぁ、逮捕命令でてるんだよ?」
「だって、あの森にいるポケモンをぜーんぶ食べたんでしょ?すっごいねぇ。」
「全部…?全部!?」
驚いた。
通りでまったく森に音が無かったのだ。
「だけどさ、ウチの組織は君が気に入ったみたいなんだ。あと、ボクも」
「…意味がわからん…」
「だからさ、ボクのチームに配属されたからキミ、後輩ね」
「はぁっ!?」
なぜか、彼はカイリューの部下になってしまったようだ。
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